サイド・エピソード「儚き命の思い出と…」

これは、エルシオール艦隊が惑星ロームから白き月へ向かう途中でのお話……
(本遍第21話の中で起こったサイドストーリーです)

エルシオール・クジラルーム。
人の心を感じ取る事が出来るという宇宙クジラも、ローム防衛戦で失われた多くの命の声を感じ取り、
しばらく動揺していたが、どうやら落ち着きを取り戻しつつあった。
それを読み取ったのは、エルシオール内動植物管理担当のクロミエ。
そのそばにはヴァニラがウギウギと名付けた宇宙ウサギの世話をしていた。
ローム星に向かう途中、ヴァニラは宇宙ウサギを気に入り、タクトや悠吾から薦められ、
里親として世話をするようになったのだ。
さらに第2救援部隊との合流後、そのメンバーであるヤヨイ、リュウヤの如月兄妹がそんなヴァニラと意気投合し、
一緒になってウギウギの世話をしていた。


ある日、ヴァニラは自分の部屋にてウギウギにえさをあげる時間となり、ウギウギのところに向かっていた。
しかし、ヴァニラが近づいてみるとウギウギの様子がすこしおかしかった。
ヴァニラ『ウギウギ、どうしたの…?』
ヴァニラはウギウギに話しかけたが反応がよくない。
心配になったヴァニラはナノマシンを用いた治療を試みたが、何故か効果が現れなかった。


どうして……?


ヴァニラは直すぐさまケーラに通信をいれた。
ヴァニラ『ケーラ先生…。ご相談があるのですがよろしいですか?』
ケーラ『あら、ヴァニラじゃない。どうしたの?』
ヴァニラ『すみませんが、私の部屋まで来ていただけませんか?それと…薬もください』

通信の声の中には、タクト、ヤヨイ、リュウヤも混ざっていた。

ヤヨイ『なにか、あったんですか?』
ケーラ『ええ、ヴァニラから連絡があってね』
タクト『ヴァニラ、調子が悪いのかい?』
ヴァニラ『いえ、私ではなくウギウギのほうです。
 さっきエサをあげようとウギウギのところまで行ってみたら様子が変だったもので…』
ケーラ『わかったわ、今からそっちに行くわ』
リュウヤ『ウギウギって?』
ケーラ『ヴァニラが飼っている宇宙ウサギの名前です』
ヤヨイ『私たちもついてきていいですか? ペットを飼った事があるから…』
ケーラ『分かったわ、じゃあついてきて』

数分後、ヴァニラの元にケーラ、ヤヨイ、リュウヤが駆けつけ、ウギウギの調子を見ることになった。
ケーラ『全身がかなり弱っているみたいね。
 一応、栄養剤を投与したけど動物のことになると私もここまでしかできないわ…』
ヴァニラ『……わたしのせいです……』
タクト『仕方がない、今悔やんでも……。ところでナノマシンは試したのかい?』
ヴァニラ『何度か試してはみたのですが効果がありませんでした…』
タクト『ナノマシンは小動物にも有効なはずなんだけど…もう一度やってみたら?』
ヴァニラ『はい…』
ヴァニラはもう一度やってみましたが効果が現れず。
タクト『そんな…、ナノマシンでも治せないものなんて…』
タクトがそうつぶやいたとき艦内アナウスが流れた。
ココ『マイヤーズ司令はブリッジに戻ってください。繰り返します』
タクト『すまないがヴァニラ、今からブリッジに行ってくる』
ケーラ『私もこの宇宙ウサギについて調べてみるわ』
ヤヨイ『手伝います!』
そういうとタクトとケーラ達は部屋をあとにした。
そして、ヴァニラは再びナノマシンによる治療を続けた。


そして暫くした後、タクトが戻ってきた。
タクト『ヴァニラ、ウギウギの体調はどうだい?』
タクト『いいえ、あんまりよくありません……。あれからずっと治療を続けているのですが…』
するとタクトは驚く。なんせアレから4,5時間も経過しているのだ。
タクト『あれからって…、もう4・5時間は経っているじゃないか!!」
ヴァニラ『時間など、関係ありません…』
ヴァニラはかまわず治療を続ける。見るに耐えなくなったタクトが止めようとするが、ヴァニラはそれを振り払う。
ヴァニラ『治療の…邪魔をしないでください』
タクト『邪魔をする気なんてないよ。けど、今のヴァニラは少しおかしいよ』
ヴァニラ『私は…正常です。問題ありません…』
タクト『いや、おかしいよ! さっきだって「今度こそ失敗しない」とか
 「シスター・バレルのようにはさせない」とか言っていたじゃないか!』
ヴァニラ『え……。私はそんなこと言っていましたか…?』
言った覚えが全然なかった……。いつの間にか口にしていたのだろう。
タクト『ほら覚えがないじゃないか、少し落ち着くんだ…。
 ヴァニラ、君とシスターの間で何があったんだい?』
ヴァニラは口を開かない。
タクト『無理に話す必要はない。だけど、このままヴァニラをほおってはいられないよ』

少しながらの沈黙…そしてヴァニラはは静かに語り始めた……。

ヴァニラ『シスター…シスター・バレルは身寄りのない私を引き取ってくれました。
 シスターの家に迎えられた私はそこでナノマシンの技術を教わり、
 私はシスターを親のように慕いました。この幸せな日々がいつまでも続く…幼い私はそう信じていました。
 しかし…、私が8歳になったある日シスターは突然ベッドの上から起きられない身体になってしまいました。
 そして日を送るたびにどんどん衰弱していきました…。
 私もナノマシンを使いましたがいっこうに効果が現れず、息を引き取りました…』
タクト『死因はなんだったんだい?』
ヴァニラ『老衰だったと、後で聞かされました…』
タクト『だったら仕方が無いじゃないか!! 寿命だったんだろ?』
ヴァニラ『いいえ、私のせいなんです…! あのときシスターの様子に気をくばらなかったせいで。
 だから、あの時のようにはさせません…長話をしてしまいましたね。治療に戻ります」
タクト『…わかった。ヴァニラがそこまで言うのなら俺はもうなにも言わない。
 ウギウギ、元気になるといいな…』
ヴァニラ『はい。ウギウギは必ず治します…!』


それから30分後、タクトはケーラたちからの連絡を受けてクジラルームに向かった。
そこには、悲痛な顔をしたケーラ達がいた。
そしてクロミエから残酷な真実を突きつけられる。
クロミエ『治療法は…ありません』
タクト『なん…だって…?』
クロミエ『あの宇宙ウサギはもう寿命なんです……』
タクトの顔が血が引くように感じられる。
さらにそれに追い討ちをかけるようにヤヨイの口が開いた。
ヤヨイ『私も医務室で調べてみました。そしたら、ヴァニラが飼っている種類の宇宙ウサギは、寿命がとても短かった…。
 クロミエからいつ生まれたのかを聞いて計算してみて、もって今日だとおもうんです……』
タクトはヴァニラから聞いたことを思い起こした。
タクト『それじゃあの時と同じじゃないか…! くそッ!!』
ケーラ『あのときって?』
タクト『シスター・バレルのことです、シスターも老衰が原因で亡くなったんです。
 ヴァニラはシスターとウギウギを重ね合わせていて「今度こそ助けたい」と必死で治療をしているんです…!』
ヤヨイ『そんな…!?』
リュウヤ『…きっと、幼いヴァニラにとって身近な人が死ぬのが信じられなかったんだろう。
 そして、助けられなかった罪滅ぼしとして精神のバランスをとった……だけど』
ケーラ『それは…あんまりだわ』
タクト『……この事は、ヴァニラに話してないんですか…?』
リュウヤ『言える訳がないでしょう……。
 簡単に言うと、必死に看病している姿を見ていると言おうにも言えない状態なんですから……』
ヤヨイ『…私、見てきます!』
リュウヤ『おい、ヤヨイ!?』
居た堪れなくなったヤヨイが、ヴァニラの部屋に向かう。


ヤヨイ(本当のことを言わなきゃ…あの子には、変わってほしいから…!)
ヤヨイが中に入ってみるとヴァニラはウギウギに対してナノマシンを使っていた。

ヤヨイ『ヴァニラ…ウギウギは…もう寿命なのよ、だから…』
ヴァニラ『……例えそうだとしてもウギウギは必ず治してみせます。
 私はあのときよりも成長している。だから、今度こそ…!』

ナノマシンの光が部屋の中で輝いた。
二度・三度……。

光るたびにヴァニラはウギウギを励まし続けた。
そして……。

ヤヨイ『もういい、もういいの…!』
ヤヨイはウギウギの様子を見てヴァニラを止めた。
ヴァニラ『いいえ…ウギウギはまだ…』
ヤヨイ『いいの…もうウギウギは、息を…引き取っているから…』
ヴァニラ『え……。ウギ…ウギ…』
少しながらの沈黙。
そして、ヴァニラはヤヨイにしがみつくようにして、泣いた…。
ヴァニラ『うぅ…うぅ…ウギウギ…ごめんなさぃ…!』
ヤヨイ『ヴァニラ…泣きたい時は、思いっきり泣いてもいいの…。私だって、こんなの…悲しいから…』

ヴァニラ『私は…もうわからなくなりました……。
 自分が努力すれば大切な人は死なずにすむとおもっていました……。
 しかし、私はシスターもウギウギも助けてあげることができなかった……。
 ヤヨイさん……私は間違っていたのでしょうか?』

ヤヨイ『間違いじゃない…でも、命は何にだって限りがある。それは神様でもない限り変えられないもの…。
 だから、限りある命を精一杯生きたウギウギは幸せだったと思う…』
ヴァニラ『今を…精いっぱい生きた?』

ヴァニラは涙を止めヤヨイを見る。

ヤヨイ『私は、1年前までは誰にも愛されず、孤独なまま兵器として生かされていた。
 でも、リュウヤに助けられてリュウヤの家族になれた今は、一緒にいられて幸せだと思ってる…。
 ヴァニラはウギウギやシスターと一緒に暮らしていて幸せだった?』
ヴァニラ『はい…。幸せでした』
ヤヨイ『きっとウギウギもシスターも同じ気持ちだと思う…。
 確かに大切な人が死ぬのは悲しいこと。その人と一緒にいた時間の分だけ……
 けど、その人が残してくれた思い出を背負って自分の時間を精一杯生きなきゃいけないの。
 自分の時間が終わるまで…今いるみんなと一緒に…!』
すると、ヴァニラはなにかを悟ったように見えた。
ヴァニラ『少し…わかる気がします。私はウギウギと過ごした時間を忘れません。
 そしてウギウギの分まで精いっぱい生きます…』
ヤヨイ『うん、そうしよ…ヴァニラに比べるとずっと少なかったけど、私もウギウギの思い出を背負っていくから。
 一緒に背負っていこ?』
ヴァニラ『ヤヨイさん…ありがとうございます。一つお願いがあります。
 もう少しだけ…このままでいてもよろしいですか?」
ヤヨイ『うん、気の済むまでいいから…』

ヴァニラはまた静かに泣き始めた……。

ヴァニラ『うぅ……う…ウギウギ…』
そして、この日ヴァニラが泣き止むことはなかった……。

大切な人を失う悲しみは、その人と生きた分だけ大きくなる。
だが、だが残された人はその人の思い出を忘れてはならない。
思い出を忘れない限り、その人は残された人の心に生き続けるものなのだから……


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