「―――生きて、いる…ッ!? 一体僕は…それに、ここはどこなんだ…」
周囲を見渡して見るアシュレー。光り輝く景色と白亜の神殿とも見て取れる場所…
アシュレーはここがファルガイアではないことを理屈抜きで確信する。
そう思ったとき、彼の後ろに一人の女性が歩み寄る

「そう、ここはキミのいた世界じゃないわ」
「あなたは…」
アシュレーは振り向き、その女性…いつか見た女性を見る。
「そうだ。僕はあなたに出逢うの初めてじゃない。アガートラームを手にした光の中で…
ゾンダーメタルとGストーンとの対消滅の波動から守るように包んでくれた、あの感覚は…
間違いない…あれはあなたから感じる波動と同じもの…教えてほしい…あなたは…」
「アナスタシア…そうね、キミたちのいた時代では『剣の聖女』って言う方が通りがいいみたいね」
「ではあなたが…」
アシュレーはアナスタシアと名乗る、アルテイシアとアーヴィングによく似た女性…剣の聖女を認識する。
「ふふっ…一度、ゆっくりお話がしたかったわ。アシュレー・ウィンチェスターくん」

幕間劇「聖女の記憶」

「アシュレーくんのことはいつも視(み)ていたわ」
「僕のことを、ですか?」
「そう、いつもね。
なんだか頼りないところもあったけど…時々、こっちがビックリするくらい大胆なことをしちゃうんだもん。
彼女―――マリナちゃんには中々大胆になりきれないくせに、ね」
「あ、あの…マリナは、その…(照)」
「おうおう、照れちゃって愛いヤツじゃのう。お姉さん可愛がってあげたくなっちゃう」
「…………(汗)」
このときアシュレーは剣の聖女のイメージを見事に粉砕されたようである。
「あれ? もしかして、怒ったかな? ごめんねぇ。からかうつもりはなかったんだけどね」
「…いえ、怒ってなんかいません…ただ、ちょっと、意外だったというかなんと言うか…
僕が考えていた『剣の聖女』ってイメージとはその…少し、違うかな、と…」
「勝手なものよね…そうやって、何もかも押し付けてしまえばいいと考えているのよね」
「え?」
一瞬目を伏せるアナスタシアに気づくアシュレーだが、その直後アナスタシアは一気にまくし立てる。
「がっかりした? でも、これが『わたし』よ。
そりゃあ、お姉さんだってたまにはHなコトくらい考えることあるわよ。
『聖女』なんて呼ばれる前はただのアナスタシアだったんだもん。仕方ないわよ」
「はあ…(汗)」

「帰りたい? ファルガイアに…マリナちゃんやギャラクシィ・ユニオンズの皆が待ってる世界に…」
「やっぱりここは、ファルガイアじゃないんだ」
そう言って二人は、長い一本道を歩き、神殿のような場所の入り口にたどり着く。

「―――命あるものの世界を『此方』とするなら死者の世界を『彼方』と呼ぶわ。
そしてここは、『此方』と『彼方』の狭間に位置する境界…ようこそ―――『アナスタシアのいる世界』へッ!
ここには、ファルガイアに生きていた頃のわたしの記憶が残っているわ。つまり『記憶の遺跡』ね…。
ここならファルガイアに通じるかもしれない。君がファルガイアを…世界を強く、思い描くことが出来るのなら…」


こうして、記憶の遺跡と呼ばれる白亜の神殿に入ったアシュレーとアナスタシア。
彼女の傍らに突如紫色の光が集い、その光は実体を成して特異な姿をした狼となる。
アナスタシア「この子はルシエド。欲望を司る貴種守護獣(ガーディアン・ロード)なの」
アシュレー「ガーディアン、ルシエド…ッ!? そんな、たしか…」
アナスタシア「そう。ガーディアンは旧支配者の意識体…実体を伴うはずが無いわ。でもこのコは血と肉を備えている…
実体を維持できるだけの力を持っているのよ。そして、その力でずっと私を守ってくれた」
アシュレー「アガートラームと、欲望のガーディアン、ルシエド…これが、『剣の聖女』を支える力…」
アナスタシア「ここから先は私の記憶が構成した空間。『記憶』、過去の象徴―――
でも、全てが意識の世界にあって、それは現実にも等しい存在…」
アシュレー「……?」
アシュレーもさすがに理解が追いつかない。
アナスタシア「行ってみたらわかるわ。ここで起こったことは私の『記憶』の時間軸で、
 現実に起こったこととして記憶されるのよ」
アナスタシアの言葉を信じて、アシュレーは記憶の遺跡を歩み始める。

途中、謎のモンスターが立ちはだかるがアナスタシアが持つ聖剣アガートラームの力と、
魔狼ルシエドによる圧倒的な力の前には叶うはずがなかった。

記憶の遺跡を進む中、アシュレーは一人の男性と少女に出会う。
男「キミは…」
少女「ここは危険じゃぞ。一刻も早く立ち去った方が懸命じゃ」
そういう二人だったが、アナスタシアがその問いに答える。
アナスタシア「違うの。この人も私達と同じ…戦うことを背負った人なのよ」

男「そうか、アナスタシアの知り合いか」
少女「――にしては…チト、線が細いようじゃが…頼りになるのか?」
男「そういうなマリアベル。アナスタシアの言うことを信じようではないか」
マリアベルと呼ばれた少女「そうじゃなジーク。ともかく、アナスタシアの足を引っ張る出ないぞ」
そう言って二人は立ち去った。
アシュレー「ジークに…マリアベル…あの二人は一体…」
アナスタシア「あの二人は、私と同じ時代に一緒に戦った仲間…私の記憶を通して、キミは、過去に触れたの。
 これは夢なんかじゃないわ…その証拠にこの邂逅は過去において現実のものとして認識されるの」

遺跡の中を進んでいくと、クリスタルのような多面体を見つけたアシュレー。
アシュレーはその物体に触れると光に包まれた。そして、空中にビデオ映像のようなものが流れる。
その映像のようなものに映ったのは、文字通り炎に蹂躙されるファルガイアそのものと、
その炎の中に浮かぶ異形の魔神。
アシュレー「…これが、今に伝えられる『焔の災厄』との戦い…」
アナスタシア「そう。言葉で伝えられる物語なんかじゃない。本当にあった戦いなのよ、これは…」
異形の魔神の姿を見て、アシュレーは既視感を覚えた。
アシュレー「…………ッ!? このげっそりする感覚…これが、僕の中にあるモノ…そうなんだろう?」
アナスタシア「…私が、私の全てを引き換えにして事象の地平…因果地平の彼方に封印した、焔の災厄―――
 今、あなたの内に存在しているのは間違いなく、焔の魔神ロードブレイザーよ…」
アナスタシアがそう話し終えた直後、記憶の映像が途切れる。
アシュレー「やっぱり…僕の力は」
アナスタシア「忌まわしき滅びと破壊の力…全てを焼き尽す焔の災厄そのもの。
 でも、力そのものに善悪は無いわ。全ては、その力を行使するものの意思に委ねられている…
 今は、あなたの内にある力が必要なのかもしれない。私の大好きなファルガイア…そして銀河(せかい)に…
 行きましょう。何もかもが、手遅れになる前に」
そういってアシュレーたちは、記憶の遺跡を突き進む。

再び記憶の遺跡を進み続けるアシュレーの前には、先ほどであった二人…マリアベルとジークに出逢う。
ジーク「キミか。また会えたようだね」
マリアベル「お主、アナスタシアの足を引っ張っておらんじゃろうな? ったく、
 お主なんぞの力を借りぬとも『剣の聖女』とノーブルレッドであるわらわ、
 それにG因子の力を持つジークがいれば、ロードブレイザーなど…」
アナスタシア「この人の力はね、そのロードブレイザーそのものなの」
マリアベル「はひ? 今、なんとッ!?」
アナスタシア「この人はね、内的宇宙にロードブレイザーを宿しているの」
ジーク「な、なんだとッ!」
マリアベル「ならばお主、ファルガイアに仇なすものかッ!? 今すぐアナスタシアから離れろッ!」
アナスタシア「心配しないで二人とも。この人はね、未来のロードブレイザーで…
 この時代のロードブレイザーではないの。敵じゃないの…わかって」
ジーク「……アナスタシアがそういうのなら…」
アシュレーの力に驚きつつも、アナスタシアの話に納得した二人は、そのままその場を後にした。

アシュレーたちは、再び遺跡を進む。
いくつかの部屋を抜けた先には、先ほどとおなじクリスタルを見つけた。
アシュレーはそれに触れ、再び記憶を垣間見る。
記憶の光が移したのは、荒野に立っているアナスタシアとその彼女の眼前に浮かぶアガートラーム。
アナスタシア「なぜ私がアガートラームを手にすることが出来たのか、わからないの。
 それまで、剣の訓練はおろか…触れたことすらなかったただの女の子だったのよ」
アシュレー「でも、実際にあなたはロードブレイザーと戦い抜いた…」
アナスタシア「無我夢中だったわ…でもそれは、『勝ちたい』という気持ちじゃなかった。
 大好きな人たちを失いたくないと言う気持ち…そして私自身も死ぬのは嫌…死にたくないって、強く望んでいたわ」
そういってアナスタシアは、皮肉めいたように微笑む。
アナスタシア「フフッ、これじゃあ聖女失格ね。
 世界のコトなんかよりも、私と私の周りのことばかり考えていたわ」
アシュレー「その考えは、僕と同じかもしれない…」
アナスタシア「アガートラームを手にするのに特別な資格は必要ないのよ。
 ヴァレリア家の血を引いてることなんかに『英雄』の意味なんてこれっぽっちも無いわよ…」
アシュレー「ッ!? 今、なんて…」
アナスタシア「私の家系だからといって誰一人でもアガートラームを手に出来たのかしら?
 ヴァレリア家の血族であると言うことに、何の意味も無いってことよ…」
そして、映像が途切れる。

アナスタシア「分からないわ…どうしてみんな、『英雄』に固執するのかしら。
 『英雄』なんて絶対の危機の前に差し出された『生贄』に過ぎないのに…」
アシュレー「『生贄』…マリナも、そう言ってた…」

記憶の遺跡をさらに進むアシュレーたち。そこに三度、あの二人がいた。
だが、その表情は暗く重い。
マリアベル「眷属は皆、彼奴めに焼き尽された…わらわは一人、ひとりぼっちだ。
 だが、ひとりになったとて、ファルガイアを守り抜くつもりだ」
ジーク「それは私も同じことだ。この星は、私にとっても第二の故郷であるからな」
アシュレー「…僕もファルガイアが大好きな一人だ。キミ達は一人じゃない。一緒に戦おう…」
アシュレーがそう話すと、二人は再びその場を後にする。

再び部屋を進んださきに、例のものがまたあった。アシュレーは三度それに触れる。
次なる記憶は、炎に包まれた世界を歩いているアナスタシアとルシエドの姿。
アナスタシア「私が、ほかの人と違うとしたら、それは『絶望』しなかったってことかしら…」
アシュレー「絶望…?」
アナスタシア「そう…誰もが、焔の災厄に――ロードブレイザーに希望を失っても、
 私とマリアベルとジークは、生きることを諦め切れなかったの」
そう言ってアナスタシアは再び笑みをこぼす。
アナスタシア「だって、おいしい物だってたくさん食べたいし、お友達とも遊びたかったわ。
 カンタンに『生きる』ことを手放したくなかったの。それが、私にあった『特別』…私が手にした力。
 それは、『欲望』だったのかもしれない…ルシエドとの出逢いはよく覚えていないわ…
 いつの間にか私の傍にいて、そのうちいなくてはならない存在になっていた…それがルシエドよ。
 ずっと前、この子が教えてくれたわ。私の意志の力がルシエドを具現化(マテリアライズ)させたって…」
映像の中のアナスタシアが、ルシエドに手を差し伸べている…
アナスタシア「私、思うんだけど…『欲望』って、生きようとする意志の力じゃないのかな?
 力そのものに善悪は無いわ。『欲望』だからって、それを忌避するのは間違っていると思う。
 かつて―――ファルガイアを焔の災厄から救ったのは『欲望』そのものよ…」
そして、映像は途切れる。

アシュレー「真実は…僕達が伝え聞いたものとイメージしていたものが全てではなかったのですね」
アナスタシア「私は…『剣の聖女』は都合の良い英雄なんかじゃないわ。時代に捧げられた生贄そのものなのよ
 体よく飾り付けられて、綺麗にごまかされた存在よ。そしないと生き残った人たちは、良い気分しないもんね。
 それが、超越した力を手にするということ…それは、今のキミのことでもあるわ…
 ううん、キミだけじゃない。凱くんにグランナイツ、瞬兵くんにナデシコのクルーとか……」
しばらく訪れる沈黙。

アナスタシア「それでも、キミはファルガイアに帰りたいと思うのかしら」
アシュレー「ああ…」
アナスタシア「あら…迷うことなく言い切れるじゃない。まいったわね、まったく…
 わかった…お姉さんの負けよ。じゃあ、行くわよ。もうすぐ、私の『記憶』も途切れるわ」
アシュレーたちは、残り少ない記憶の遺跡の部屋を突き進む……

そして記憶の遺跡の最奥に位置するであろう部屋の前に、マリアベルとジークがいた。
マリアベル「アナスタシアは命をかけてロードブレイザーを封印すると言う」
ジーク「だがそれはあくまでも封印。決して倒したわけではない…今の我々ではヤツを倒すことが叶わないからだ…」
アシュレー「…今がダメでも明日なら…明日がダメでも、次がある。
 僕達は昨日より、明日の方がきっと強い。だから…」
マリアベル「封じたものはいつかは解き放たれる…」
ジーク「キミは、『一緒に戦おう』と、そういったはずだな」
マリアベル「その言葉に、偽りは無いか?」
アシュレー「勿論だ」
マリアベル「ならば約束じゃ。次にロードブレイザーの力がファルガイアを再び脅かすとき…
 彼奴の存在そのものをファルガイアから消し去るために共に戦ってくれるな?」
アシュレーは無言で、静かに…そして確固たる想いで頷く。
マリアベル「それを聞いて安心した。イモータルであるノーブルレットの寿命は永劫じゃ。
 その時まで、いつかおぬしと出会うその時まで…わらわは待っておる…」
ジーク「私は…かつて星の海から来た…言わば異邦人だ。だがファルガイアの人々は我々を受け入れてくれた。
 私もこの命が尽きることは当分先…私は人と共にその歴史を見届け続けよう…」
こうして二人は姿を消した…

そして、アシュレーたちは記憶の遺跡の最深部にたどり着く。
アナスタシア「この先に、私の『記憶』はないわ。何も存在しない虚無の世界…
 でも、あなたが…あなたの帰るファルガイアを強く、思い描けば『途』(みち)ができるわ」
アシュレー「僕の帰るファルガイア…僕のいる世界…それは―――」
そしてアシュレーは、静かに瞳を閉じ、思いを紡ぐ……

そしてアシュレーの思いが通じたのか、暗闇から一筋の道が開かれる。
アシュレーたちはその身とただひたすらに突き進む。

アナスタシア「この向こうにファルガイアがつながっているはずよ…でも、そこに至るまでの間に道標なんて無いわ」
アシュレー「それでも、行かなくちゃいけないんだ。僕は、帰らなきゃいけないんだ…あれは?」
アナスタシア「感応石の輝き…あなたのことを強く思う光よ…」
アシュレー「…マリナが、僕の帰りを待っているんだ…あの光を頼りに、僕は行くよ…一緒に行かないのかい?」
アナスタシア「ここが、私のいる世界なの…あそこは、もう…わたしがいちゃいけないせかいなの。だから…」
アシュレー「そうか…でも、僕は行くよ」
そう言ってアシュレーが道なき道の先にある光に向かって歩み始めたその時、アナスタシアは全てをさらけ出して叫んだ。

アナスタシア
「私だって、こんなところに一人ぼっちでいたくないッ!

アガートラームなんて手にしたくなかったッ! 戦うのが怖かったッ!

聖女なんて呼ばれてもうれしくなんてなかったッ!!」

アシュレー
「………」

アナスタシア
「死にたくなかった…そうよ…死にたくなかったわッ! でも、ほかに方法が無かったのッ!

大好きなものを守るために仕方が無かったのッ!

友達と他愛の無いおしゃべりをするのが好きだった…父様と母様といっしょにいられるだけで幸せだった…

……好きな人だっていたわ……

でもね…私が私の全てを棄てる事でしか世界を守ることが出来なかったの…

言葉には出さなかったけど私には分かっていた…

死ななきゃ、『英雄』になれなかったのッ!

焔の災厄を退けることが出来なかったの……みんなが、みんな望んでいたのよ…

私が死んでしまうことを…」

その瞳に涙を流すアナスタシア。アシュレーは告げる。

アシュレー
「僕は、『英雄』になるためにファルガイアに帰るんじゃない…」

アナスタシア
「じゃあ、なぜッ!? 何のためにッ!」

アシュレー
「多分、あなたと同じ大切なものがあるから…

マリナやトニー、ブラッドにリルカにティム…シオンにコスモス…

リューン達ギャラクシィ・ユニオンズの皆…

そして、大切なものを守るために『英雄』と言う『生贄』に縋るのではなく…

もっと、別の方法を見つけるため―――」

アナスタシア
「……あなたなら見つけられるわ…ううん、絶対に見つけて…そして…ヴァレリアの悲しみを止めて……」



アナスタシアから託された魂の言葉と、魂の思いを背負いアシュレーは光の中へ…
そして、アナスタシアはルシエドに…

アナスタシア「わたしは、もう…一人で大丈夫。今までありがとう、ルシエド」
ルシエド「アナスタシア…いいのか?」
アナスタシア「いいの…今度は、あの人に力を貸してあげて…彼の心を守る鎧として…そして剣として…」
ルシエド「…分かった」
そしてルシエドもアシュレーが向かった光の中へ飛び込み、アシュレーの後を追う。
程なくしてアシュレーはルシエドを見つける。
アシュレー「ルシエド…」
ルシエド「アナスタシアから頼まれた。お前の心にある正しき『欲望』…それを糧として我を使え」
アシュレー「…わかった。よろしくな」
そしてルシエドは光となって、アシュレーの体の中に入る。
最後にアシュレーはアナスタシアの声をはっきりと聞き取った。
彼女はもう一度こう伝えた。

お願い……ヴァレリアの悲しみを止めて…

アシュレー(まだ…始まっていなかった…だけど、大丈夫だ。この世界なら皆がいる。僕も頑張る…
 そして―――あなたも一緒に戦ってくれるから……)


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