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四・糧、そして悲しき再会

 

ブリッジの通路を進んでみると、少し広い部屋にたどり着く、その部屋には幾つもの繭らしきものがぶら下がっていて、遠くの方では先ほどとは比べ物にならないほど巨大な蟻が見張りのごとくうろついている。

「不気味ですわね…」

「…大きさはざっと2、3メートル。少し触ってみたが本物の繭だ」

「むやみやたらに手を出さない方が懸命だ。奥への道を確認したい」

「それなら、適役がいるぜ。頼むぞエルフィア」

「おっけー!」

そう言ってエルフィアがひょっこりと周囲を飛んでみた。巨大蟻の視界に入らないように注意を払いつつ、奥へと続く扉を見つける。その後、直ぐにエクスの元に戻って、うまくやり過ごせるルートまで教えてくれた。

「成る程。このたくさんある繭自体が絶好の隠れ蓑になるわけだな」

「そういうコト。早く行こう」

エルフィアの一言で意を決し、エクスたちは繭を司会の盾にしつつ、巨大蟻をやり過ごした。

そして扉を開け、しばらく通路を進むと、とある一室におぞましい景色を見る。

なんと、ひときわ大きな蟻が繭を作っている風景であった。その脇にはかろうじて生きているが、身動きが取れない冒険者達の山があり、そこから一人ずつ運ばれ、どこからか生成される糸に巻きつけて繭を生み出していた。

 即ち、さっきの部屋にあった無数の繭の中には、全て人間が入っていたのだ。

「な、なんてこと…」

思わず目を伏せてしまう七海。

「…この巨大蟻の生態といったところか」

「ねぇ、何とか助けられないの!」

「無理だなエルフィア。なんせ数が多すぎる。俺達だけではどうにもならん」

「今は私達の出来る範囲のことをするしかないということですわね」

「だったらやることは唯一つ…親玉を討つことだな」

「そうだエクス。蟻の習性を考えれば当然の結果だ」

「……」

「あれ? どーしたの七海ちゃん」

「呼んでる…」

 そう言って七海は何かに取り付かれたように一人で歩み始める。

「ッ! 危険だ、七海!」

そう言って手を伸ばすスニーフだが、すでに駆け出し始めている七海の手にととかず、七海はそのまま奥の方へ駆け出してしまった。

「七海さん!」

「…追うぞ」

やむを得ず七海を追うエクスたち。しかし、途中で巨大蟻に見つかってしまう。

「もー! よりによってこんな時に!」

「…どいてくれ。このままなぎ払う」

そう言ってハガネは手に持っている身長以上の大剣から、柄の部分を延ばして、槍として構えた。

そして無言のまま突っ込んだハガネは、槍となった大剣でそのまま前方に立ちはだかる巨大蟻を一刀両断する。そしてその太刀筋はブリッジの床にめり込むほどであった。

「…七海の姿は?」

そうハガネが言うとエクスたちは直ぐに辺りを見回すが、既に七海の姿は無い。しかしその先には、七海が向かったと思しき道があった。

エクスたちは、ためらう暇も無く進む。

先ほどの巨大蟻を退けたエクスたちは、一人駆け抜けた七海を追って通路を走る。途中巨大蟻が何度か立ちはだかるが、エクスの徒手空拳で、あるときはスニーフの銃弾によって、あるときにはハガネの大剣によって蹴散らされた。時々不覚にも攻撃を受けてしまうことがあったが、その時はフォウリィの聖術でカバーできた。

 そして、エクスたちは大きな部屋へと出る。

その部屋の奥には観音開きの大きな扉が存在している。そして扉の前には、一人の男が立っていた。

「…気をつけろ。門番だ」

「邪魔をするのなら力ずくでもまかり通るぞ」

「! 待ってくれ!」

エクスが二人を制する。

「どーしたの? エクス」

「あれは…あの人は…!」

「もしかして、アティスさん?」

「間違いない…師匠だ!」

思わず眼前に駆け寄るエクス。しかし…

「待てエクス! 様子がおかしい!」

「!」

スニーフの声を聞いたその瞬間、エクスが師匠と呼び、七海が探していた人物、アティスが片刃の剣を抜き、襲い掛かる。

「ぬあっ!」

半歩下がってその太刀筋をかろうじてかわすが、切っ先で白銀に輝くエクスの前髪を散らす。

「な、なんでなんだ師匠! 漸く会えたと言うのにッ!」

「エクスさん…今のアティスさんには、生の鼓動がほとんどありません…おそらく、ほかの冒険者さんと同じく…」

「そんなッ! エクスのお師匠さんにやっと会えたのに…こんなのってないよ…ッ!」

「…エクス、やるしかない」

「そうだ。戦場でのためらいは死と直結するぞ」

「……わかった。俺はもう迷わない!」

そう決意したエクスは腰に佩いていた刀の固定具をはずし、鞘ごと左手に持って構えた。

「……」

物言わぬアティスと、静かに構えるエクス。

二人の体内に魔力を練っていることが、フォウリィとエルフィアは感じ取ることが出来た。

そして…刹那の静寂の後に、二人の距離が一気に縮まり、交差する――――――

 

袈裟斬りを放ったアティスと、鞘を左腕に、刀を右下に向けて振り下ろした独特の居合いを放ったエクス。

一閃の勝負は、エクスに軍配が上がった。

アティスの太刀筋を、左手の鞘で受け流しつつ、居合いの一閃でアティスの胸元を断ち切ったのだ。

程なくして倒れるアティス。エクスはすぐさま駆け寄る。

「師匠ッ!」

「エクスよ…強くなったな…お前達なら、託すことが出来よう」

そう言ってアティスはエクスたちに静かに話す。

「この蟻どもは、人間を遺跡におびき寄せ、餌としている恐ろしい魔物だ。そして普段の食料は自分達で入手する分で十分なのだが、3年に1度、女王が次の代の女王を産む。その滋養には強い人間が必要なのだという。それがここの真実だ……

「そんな…九年以上も前から、このブリッジはのっとられていたのですね」

そして、アティスはその事実を掴んで3年前にギルドの仲間と討伐に来た。しかし、その仲間の中に既に操られているものがおり、こうして自分も取り付かれてしまった。だが完全に支配はされず、こうして意志を保ったまま3年間、ここで次に来る冒険者を待っていたのだった…。

「…まさか、弟子のお前が来るとは思ってもみなかったな。弟子は師に似るということか」

「となると、女王蟻とやらを殲滅するのは今しかないと言うのか」

「…その通りだ。女王蟻の外骨格は鋼鉄のごとく硬い。しかし、腹の部分が唯一その外殻に覆われておらぬ。狙うならそこだ」

「ありがとう師匠…俺はもう行きます」

「そうだ…さっき一人の少女が入っていった。おそらく彼女が次の世代の依代だ」

「そんな、七海ちゃんが!」

「七海? そうか、どこかで見覚えがあったがなんという薄幸の娘だ……

「あの時…! 迂闊だった。俺が注意を促しておけば…ッ!」

「…スニーフ。悔やむ暇があるなら急いだ方が良い」

「ああ」

「師匠…安らかにお眠りください。七海は、俺達が助けます!」

「それを聞けてよかった…生きろよ、エクス」

そうつぶやき、アティスは漸く、永久の眠りにつくことが出来た。

「エクス…」

「涙を流すにゃまだ早い…急ごう!」


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