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壱・神殿にて

 

 場所はランツの町にある民間冒険者斡旋をかねている神殿。もう直ぐ行われると言うブリッジでのトレジャーハント大会の受付を行っている場所にたどり着いたのはスニーフとハガネであった。

 二人はまず、ブリッジの管理をしている人物と思しき神官と話をすることになった。

 「スニーフ殿に、ハガネ殿、ですね。遠路はるばるよくいらしてくれました」

「…はい。一応カーディナルから視察に向かうという話は伝えてあると思いますが…」

「その話は聞いております。ですがあなたたちはカーディナルの学徒。慣れない旅にさぞお疲れでしょう」

「そのことに関してはお気遣い無く」

多少の気遣いを感じ取りながらもスニーフはきわめて事務的に話を進める。その様は軍人そのものである。

「ひとつだけ、質問させてよろしいでしょうか」

「はい、かまいませんが?」

「街中では、ブリッジ探索に貢献すれば神殿から賞金が出ると言う話で持ちきりです。それは、神殿の方針で決めたものですか?」

「はい。私どもの方で決めたことでございます」

そう神官は穏やかに丁寧に答える。

と、そこにハガネが質問する。

「…確かにその方が冒険者にとっても都合が良いですね。ただ、その賞金の提供者とかは知ってますか?」

「それは、私はその決定の場にいなかったので…何しろ第一回目は九年前に行われたものですから」

「…そうですか。自分達も、カーディナルの学徒とはいえ、これでもブリッジ探索には一日の長があります。自分らも参加させてほしいのですがいいですか?」

「ええ勿論。カーディナルの学徒さんなら期待が出来そうですね。頑張ってください」

「では、そうさせていただきます」

そう言って二人は、参加用紙にそれぞれの名前を書き記す。参加用紙を神官に渡した後、ハガネはスニーフに小声で話しかけた。

(…よかったのか。あえて例の件は話さなかったが)

(ああ。現状ではなんともいえないからな。ほかの場所でもう少し情報を得た方がベターだ)

そう話を進めた二人は最後に神官に話す。

「できれば、神殿の運営予算等の資料も準備しておいてください。視察の一環でもありますので」

「はい。確かに了解いたしました」

スニーフの言葉ににっこりと対応する神官。

そんなことを気にしつつも神殿を後にする二人だが、スニーフは前方不注意のせいで何かにぶつかってしまう。

「むっ!」

「きゃ!」

スニーフは何とか踏ん張ったが、ぶつかった女性はふらついて尻餅をついてしまった。その横にいた緑色の女エルフが転んだ女性に寄ってくる。

「あらあら、七海さん大丈夫?」

「あ、うん。大丈夫…ってちょっとアンタ!」

七海と呼ばれた黒髪の女の子はすぐさま立ち上がってスニーフをビシッと指差す。

「何ボケーッと突っ立ってんのよ! 人がよく通る場所で壁みたいになって…迷惑だと思わないのッ!」

「あ、いや…すまなかった」

「ったく…」

「七海さん落ち着いて…そんなに大きな声出しちゃうとそれこそ迷惑よ」

「あ。」

「…とりあえずここは場所換えをするか」

ハガネの言葉に満場一致した三人はすぐさま近くにあった椅子に座る。

しばらくして落ち着いたのを見計らってハガネが二人に尋ねる。

「…自己紹介がまだだったな。自分はハガネと言う。彼はスニーフ。カーディナルから来た…冒険者だ」

「あらあら。でしたら私達と同じですわね」

「ちょっとフォウリィ。義体なこの人ならともかく、こんなボケボケ男と同じにしないでくれる?」

「何を言うか。俺はこれでも何度もブリッジでの戦いを潜り抜けてきた。そこらの素人と一緒にするな」

「何よエラソーに…」

「…落ち着けスニーフ」

「七海さんもですよ。私はフォウリィといいます。好きにか呼んでかまいませんわ」

「…それではフォウリィと…七海さんでいいか?」

「あ、私も呼び捨てでいいわよ。その代わりあたしも呼び捨てで良い?」

「…かまわない。改めてだが、二人はなぜここに?」

「私たちは、ある人物を探しているのです」

「…ある人物?」

「アティス・ヒッタイトって言う冒険者よ。小さい頃にあたしを助けてくれた恩人なの」

「…そのアティスさんと、この町にどんな関係が?」

「3年前に、アティスさんがこの町にやってきたっていう情報を知って、それを頼りに来たんだけど…」

「細かい情報は皆無ということか」

「アンタに聞いてないッ!」

そう言って七海はどこから取りだしたのかハリセンでスニーフの頭を引っぱたく。

「そ…そのハリセンはどこから出た…」

「それは私にも分かりませんわ。多分、言ってはならない暗黙のお約束かと…」

「…謎だ。ともかく、その話を聞こうとここ(神殿)に来たということか」

「そ。そしてその後は…あのオチよ」

「…そうか」

 「ところで、ハガネさん達はどうしてここに?」

「…自分らはここで三年に一度開かれると言うブリッジのトレジャーハント大会に参加しようと思っている」

「といっても、この大会はどうもきな臭いがな」

「ってどういうことよ?」

「今年で三回目を迎えるらしいが、過去の二回にわたって成功したと言う冒険者の噂が全く無いらしい。それをついでに調べようと思っている」

「ふーん…」

何となく無関心そうに言う七海。

「…とまぁ、話はこんなところだ。とりあえず、まずは二人とも、やることがあるのではないのか?」

「あ。」

そうハガネに言われたフォウリィと七海はなぜここにきたのかを思い出す。そしてすぐさま受付の神官にアティスについて調べさせてもらった。

「たしかそのアティスというお方。剣士の方ですよね?」

「はい! そうですッ!」

 はやる気持ちを抑えつつ七海は神官からの答えを待つ。

「確かに前回、探索者の一人としておられました。ですが…」

「え?」

「戻られていないと記憶しております。戦場にされてないといえども、ブリッジですから危険であることに変わりは無いですし。それでも冒険者でしたから覚悟していたのでしょう」

そう淡々と神官はアティスについての記憶を引っ張り出しつつ、話した。その話を聞いた七海は絶句する。

「アティスさんが…そんな…」

「七海さん…」

「あのブリッジのゲートは本当に三年に一度しか開かれないものなのです。冒険者達に報奨金を出すのもその理由でして…ですから……仮にその日に命があったとしても、戻ることが出来なければ次に開くまで出ることはできません。まさか中で生きているということでもない限り……残念ですが」

「三年間もブリッジの中…」

その事実に七海は今にも泣き出しそうになる。だが、彼女は強気にもこういった。

「ううん。アティスさんなら…あの人なら絶対に生きてる! 私はそう信じたいから…!」

そう自らを奮い立たせる七海。そんな彼女をフォローしたのは意外にもスニーフだった。

「そのアティスという人物がどれほどか知らないが、ブリッジのことをよく知っていれば、生きている可能性はゼロではないな」

「え?」

「…スニーフ、お前…」

「ブリッジには様々な機能を持ってる。その機能をうまく生かす術を持っていれば、決して不可能なことではない」

「アンタ…」

「その証人として、今ここにいる」

そう言ってスニーフは、自分の胸をトンとたたく。

「スニーフさんが?」

「…彼の言ってることは本当だ。彼は幼い頃にブリッジに捨てられ、救助されるまでブリッジで生き延びたと聞いたことがある」

「そう…だったんだ」

「あの〜…話を続けていいですか?」

「あ。」

感傷に浸っている四人に水を差すかのように神官が遠慮がちに話しかける。

「…すいません。で、話とは?」

「いえ、そのアティスさんのことを尋ねたお方があなた達より数分前に訪れていました」

「あらあら、七海さん以外にも関係者が?」

「はい。その方も今回の探索に参加することになって、検査を受けました」

「検査?」

「はい。申し訳ありませんが、そういう決まりなのです。御二方も参加されますか?」

そう言って神官は七海とフォウリィに尋ねる。

「如何するフォウリィ…」

「アティスさんに関する唯一の手がかりもブリッジ…行くしかありませんわね」

「…何なら、自分らと一緒に行かないか」

「え?」

「…ブリッジに挑むのなら、人数は何人かいた方がいいだろう」

「それじゃ、お言葉に甘えてもらおうかな」

そう言って七海とフォウリィは、参加登録を済ませた。そして四人は身体検査を受ける。

その後……四人のうち、ハガネ、スニーフ、フォウリィの三人がすでに終了してさっき座っていた椅子で待っていた。しばらくすると神官が現れ、三人には検査に問題が無いことを告げる。報告を聞いた後、ハガネは不意に神官に話しかけた。

「…そういえば、少し前にアティスについて尋ねた冒険者がいたんでしたね」

「はい。それが何か?」

「…その冒険者のことを教えてほしいんですが」

「あ、はい。確かその方は…肩にフェアリーを乗せていらして、腰に変わった形の剣を佩いていましたね」

「変わった形の剣…ですか?」

「ええ。細くて少し曲がった形をした剣です」

「…成る程。その冒険者の名前を教えてください」

「確か登録用紙にはエクスと書かれていました」

「エクスか…少し情報を集める必要があるな」

そんな話をひとしおな中、七海が遅ればせながらこっちにきた。

「お、おまたせ〜」

「あらあら、遅かったですね七海さん」

「ちょっと、色々と調べられたのよね…」

「? 俺らは簡単な検査しか受けてないぞ?」

「なんて言うか…普通の診察みたいなのから始めて…血液検査とかぶっちゃけ精密検査並みのことをやらされたの」

「…何ゆえ?」

「う〜ん…あたしは、確かにフォウリィやハガネたちに比べると体力には冒険者向きじゃないし…でも、魔術(ウィザードクレスト)を独学で覚えたの」

「…魔術を?」

「私は、両親が司祭でしたので、聖術(クラリックスペル)を親から学んでいました」

「…成る程。学ぶ機会が増えたとはいえ、独学で旅を出来るほどの腕を得たとは…すごいな」

  「いえ、それほどでも…」

  「…謙遜することは無い」

そんな話の中、スニーフがふと気づく。

「七海」

「ん、何なのよ」

「何か様子がおかしくないか? 例えるとするなら風邪を引いているような感じに見えるのだが…」

「そう? 言われてみると何か体がだるい感じがするのよね。でも一日寝れば治るでしょ」

「そうか…」

違和感に気づいたスニーフだが、ここはあえて詮索しないことにした。

「…話によると、ブリッジのゲートが開くのは明後日だそうだ。今日は宿に泊まろう」

「それには肯定だ。明日はエクスと言う人物についての情報を収集したいと思っていたからな」

「エクス?」

「神官さんとお話していたのですけど、私達が来る少し前にアティスさんについて尋ねた方がいらっしゃったようなんです」

「へぇ…そうなの。どんな人?」

「肩に妖精を乗せていて、腰には変わった形の剣を佩いていらっしゃるとか」

「ふーん…どんなヤツかあってみたいね」

そんな話をしつつ、四人は神殿を後にした。

 

その夜……。

 

神殿の地下にある秘密の会議場。

人の目ではまったく見通せない闇の中、人の服をかろうじてまとった2匹の巨大な蟻がいる。

蟻はキチキチと尖った顎をならしながら、触覚と触覚を合わせて会話している。それはとても人には理解できないコミュニケーションであった。この二人の会話を、もしテレパシーの類で通訳できるとしたらこうなった。

「見てください神官長。このデータを」

「おお、久方ぶりの適性母体じゃ」

「ええ、これは正に十年に一度の逸材です」

「これは必ず女王様に献上せねば」

「然り、然り」

人の目に入らぬ暗闇の中、二匹の蟻は人にはわからない笑い声を上げていた……。


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